こんにちは。ヂヤンテイシステムサービス代表の小澤です。
2014年度から「職業実践専門課程」がスタートしました。ご存知でしょうか?専門学校の新しい制度なのですが、これまでの「専門課程」の中で職業実践的な教育としての条件を満たすものを「職業実践専門課程」として文部科学省が認定するようになったのです。
専門学校は専門課程を設置する専修学校として、都道府県から認可された学校ですが、2014年4月から文部科学省認定の専門学校ができたことになります。その流れと言って良いと思うのですが、現在の専門学校とは別の、実践的な職業教育を行う教育機関の創設が検討されていています。
新たな教育機関の名称として「専門大学」「職業大学」という意見もでていて、これから専門学校に入学をする方にも将来影響がある可能性があることから、最近の動きをまとめてみることにしました。
まずは、今年の4月にスタートしたばかりの「職業実践専門課程」についてです。
私も昨年の秋、「職業実践専門課程」の申請準備をしている専門学校様との打ち合わせを通して、存在を知りました。認定されれば広報に活かすことになり、「職業実践専門課程」をどう宣伝しようかとさんざん調べたのですが、文部科学省から告知されたばかりで、WEB上にはわずかな情報しかありませんでした。
専門学校は基本的に都道府県から「専門課程」を設置している学校として認可を受けています。専門課程を置く学校は「○○○専門学校」のように、学校名に「専門学校」の名称を用いることができます。
その専門課程の中でも、企業や業界団体などと連携しより実践的な教育を行っているものを「職業実践専門課程」と文部科学省が学科単位で認定することになりました。簡単に説明するとこういうことであり、都道府県ではなく文部科学省から認定されることが、これまでの専門課程とは大きく違う点です。
文部科学省の職業専門課程リーフレットでは以下のような案内をしています。
「職業実践専門課程」は今年の春、平成26年4月にスタートしました。そのため専門学校は現在、「職業実践専門課程」認定校と、「専門課程」および「高等課程」「一般課程」等を設置しているが、「職業実践専門課程」認定校でない学校の2種類があると言えます。
「職業実践専門課程」として認定された専門学校は、大いにその存在と優位性を入学希望者に伝えるべきだと思います。
今年の4月に文部科学省から公表された「職業実践専門課程」認定校は、以下から確認できます。
※情報が更新される毎にリンク先が変更となり、リンクが切れる場合がありますので、その場合は、文部科学省の中の以下のページ「職業実践専門課程」の認定課程一覧(※PDF)の項目から訪問してください。
日本の専門学校の数は、最新情報で全国2,814校。今年の春、「職業実践専門課程」として認定された学校数472校、学科数1,373学科です。全専門学校の中の17%なので、数字で見る限りはまだまだ少ないということになります。
この後の項目で経緯を説明しますが、今年度は申請が間に合わなかった学校も多いと想像できます。あるアンケート調査があるのですが、来年度は半数近くの専門学校が、「職業実践専門課程」認定校となっていることが予想できます。
認定を受けた職業実践専門課程の各学校、各学科の基本情報資料が上記のページにはリンクされています。学科ごとに募集定員と実際の在校生の数、中退者数などを、入学前に入学希望者は確認することができます。
この情報は、原則として学校のホームページに掲載し、情報提供を行うことになっているため、各学校のホームページでも確認できるはずであり、専門学校志望者、高校の進路指導担当者にとっては、学校選びの新たな参考材料となります。
また、雇用保険法の一部改正により来月10月1日から「教育訓練給付金」の給付内容が拡充されるのですが、今年4月にスタートしたばかりの職業実践専門課程が「教育訓練給付金」対象講座になりました。
「教育訓練給付金」の給付上限は、これまで10万円だったものが何と48万円に。職業実践専門課程の学科で2年間学ぶと96万円給付されることになります。基本的には受講料の4割給付ですが、資格取得が就職につながれば2割追加でその年間上限が48万円です。専門学校を卒業すれば高い確率で資格取得と就職はつながるため48万円と考えて良いと思います。
さらに、訓練中(在籍期間中)に給付される「教育訓練支援給付金」も創設され、該当者は「教育訓練給付金」と「教育訓練支援給付金」はダブルで給付されるため、社会人が転職する際の学び直しに、指定講座がある専門学校へ再入学しやすくなったと言えます。
詳細情報は厚生労働省のホームページを参照してください。
▲教育訓練給付制度
先月発表されたばかりですが、10月1日から新しくなる教育訓練給付制度の対象講座も、厚生労働省の以下のページから確認できます。
職業実践専門課程認定校でなくとも、対象となる業務独占資格を取得できる学科が対象となるので、以前から多くの専門学校の学科が対象講座となっていました。そんな全ての対象講座とその学校が確認できます。
厚生労働省のホームページには「講座検索システム」があり以下のようなサイトになっています。しかしながら、この度拡充された「専門実践教育訓練」講座は反映されていないようです。もう少ししたら全ての講座を検索できるようになると思います。
教育訓練給付の対象講座になるためには審査があり、職業に結び付けるための給付金制度ですから、ハードルが高いという話も聞いたことがあります。それだけ、教育訓練給付の対象講座になっている講座は安心であるとも言うことができ、「職業実践専門課程」も信頼の証であるとも言えます。
私が専門学校広報担当者であれば、既卒者向けにこの拡充された制度のことをどんどん宣伝してしまいます。それだけの魅力があり、学校のブランド力を高める効果も望めます。
2006年に教育基本法が改正され、それまで重要視されていなかった職業教育の充実がうたわれました。それを受けるように文部科学省が「専修学校の振興に関する検討会議」を設置したのが2007年。社会環境の変化に対応したキャリア教育・職業教育について検討され、新たな学校種についても話合われています。
さらにそれを受けて、中教審(中央教育審議会)で議論が深められ、新たな学校種についても30回にわたり議論されたようです。2009年の中教審特別部会では「高等教育段階のキャリア教育・職業教育」が諮問されました。背景には、非正規雇用拡大による弊害や、大卒者の新たな就職難という社会背景があったことは記憶に新しいところです。
ところで、2009年といえば7月に政権交代があった年です。民主党政権になって話題を集めた事業仕分けにキャリア教育・職業教育のプランや事業も呑みこまれ廃止となりました。
そのため先の諮問に対する答申が出されたのは2年後。2011年1月「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」の中で、高等教育レベルでの新たな「職業実践的な教育に特化した枠組み」の構想が示されています。
この答申を踏まえ、文部科学省に設置された「専修学校の質の保証・向上に関する調査研究協力者会議」が調査研究を行った上で検討を行い、先導的な試行としての「職業実践専門課程」を認定する仕組みづくりが行う必要性があると結論づけられました。
それが2013年7月なのですが、自民党政権が復活したことで、スピードが加速したことが想像できます。「職業実践専門課程」が文部科学省から告知されたのが8月30日。専門学校は都道府県知事等に申請後、都道府県知事等から文部科学大臣に推薦する手続きを取りますが、その締切りが翌年の1月10日であったため、初年度準備できる専門学校は少ないと見られていました。
「職業実践専門課程」の誕生という視点で、教育に関する審議を見てきましたが、これらの審議や検討の背景にある主要テーマは、専門学校を中心に考えると「職業教育の在り方」であり、常に検討された項目として専修学校の1条校化運動がありました。
「職業実践専門課程」には、「先導的な試行としての」という言葉が付いています。「職業実践専門課程」は次のステージへのステップであるという意味が込められているようで、ちょうど今年の7月、政府の教育再生実行会議が、第5次提言の中で、高校卒業後に進学できる職業教育学校の創設を提言しました。
それが、専修学校の1条校化運動と深く関係しているので、1条校化運動を振り返る必要がでてきます。ここでいう1条とは、学校教育法第一条のことで、そこには以下のような条文があります。
この中に専修学校や専門学校という言葉は入っていません。そのため、全国専修学校各種学校総連合会が、専修学校を学校教育法第一条に規定する学校種に位置付けるよう文部科学省に働きかけてきました。これが1条校化運動です。
高卒後の進路として公的な役割を充分に果たしてきた専門学校として、この主張はもっともであり、1条校であることによって公的財政支援が受けられ、各種の優遇措置が適用されるそうです。しかしながら、1条校になることで、自由で機動力のある専門学校の良さが失われると指摘している方もいます。
2006年の教育基本法改正によって「職業教育の重要性」が打ち出されていたこともあり、先に紹介した職業教育における議論の中で検討されてきました。その中で、専修学校全てを1条校とするのではなく、実践的な職業教育を重視した新たな高等教育機関を創り、認めた専門学校を1条校に転換していく方針になったようです。
2014年7月、政府の教育再生実行会議の第五次提言として「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関を制度化する」と発表されました。
▲教育再生実行会議 「今後の学制等の在り方について(第五次提言)」
何度か書きましたが、「職業実践専門課程」は今年の4月に始まったばかりの制度です。にもかかわらず「教育訓練給付金」の対象講座になり、さらには新たな学校種としての職業教育学校の創設が提言されているのが今現在です。
新たな学校種と「職業実践専門課程」の関係については明確な表現がありませんでしたが、関係がないという方が無理があると思います。「職業実践専門課程」から次のステップへの移行は、第2次安倍内閣の成長戦略によるものであり、スピードに加速がついているように感じます。
専門学校は1条校でなかったことによって、学校独自のカリキュラム編成することも可能であり、18歳人口減少の中、激化する競争の中、質の高い職業教育、職業人育成教育で実績を残してきたのは確かだと思います。
「職業実践専門課程」の認定を受けなくとも、実質が職業実践教育なのではないかとも思いますが、このように、教育訓練給付金制度の対象講座となり、新たな学校種の計画が提唱されてくると、ステップとしての「職業実践専門課程」が必要だとも考えられます。
就職を重視した専門学校化したような大学のパンフレットもいくつも見たことがあります。大学も就職に結びつかなければ入学者を確保できない時代になったようですが、本来、学問が社会や産業に還元されないのはおかしなことで、大学も産学連携がこれまで以上に推進されると思われます。
そういう意味でも、新たな職業教育学校が創設され、大学・短大・専門学校の再編成の動きが今後あるのではないかと注目しています。就職重視の大学や短大が、新たな職業教育学校に転換される?専門学校が職業大学に?どうなるのか分りませんが、本当の意味で就職に強い学校ができるのだと思います。
これから進路を考える方、キャリアアップを考えている方、企業の人事の方にも関係の深い内容のため、どなたでも分かるように書いたつもりですが、いかがだったでしょうか?
新しい職業教育学校ができるのなら、社会人の学び直し入学に門戸を開いたものにしてほしいものです。それを目指しているようなのですが。
そもそも専修学校の専門課程は、高校卒業者を入学資格にした課程なのですから、従来のように高校卒業者の受け皿として、新たな職業教育学校にはない職種、職業人教育の場として発展し続けるのが良いと思います。
二十歳前後で天職が見つかる人も実際は少なく、いくつになっても社会人が学び直すことができ、前向きな転職ができる社会になってほしいと思います。そういう視点から、新たな職業教育学校の創設過程を見守っていきたいと思います。