2013.12.5 mizuki

浅草橋に『人形のまるぎん』あり!

人形のまるぎん

 

こんにちは!ヂヤンテイシステムのミヅキです。

当社のある“カチクラバシ”エリアの記事第2弾をお送りします。

 

カチクラバシの“バシ”の部分にあたる浅草橋。

アサクサという響きから、有名な“浅草”と混同されることも多い“浅草橋”ですが、浅草からは2駅分の距離もあって、数多くの専門店が立ち並び、独特な雰囲気のある街です。

 

その中でも、人形といえば浅草橋!

 

浅草橋は、全国No.1の人形の町なのです。人形の久月、秀月、吉徳大光など、お正月にTVCMも流れる有名なお人形屋さんはみんな浅草橋にあるんです。JRの駅前から節句人形の専門店が軒を連ね、この町のカオを作っています。

 

その中の一店『人形のまるぎん』の三代目店主であり、一般社団法人日本人形協会の会長でもある八木駿一郎さんからお話を伺いました。

 

『人形のまるぎん』と節句人形の町、浅草橋

浅草橋駅前

 

浅草橋には今でも目を見張るほど人形店は多いのですが、もう随分減っていて、数十年前には駅前に30軒以上あったのだそうです。

 

そんな今でも、JR浅草橋駅の東口から徒歩48秒と、公式サイトでもユーモラスに表記されている交通至便の『人形のまるぎん』。多くの人形店がしのぎを削る浅草橋で、ここならでは!という良さを様々な点で打ち出しています。

 

『人形のまるぎん』には、社員がただ売り子として立っているばかりでなく、人形協会が試験により審査のうえ認定する「節句人形アドバイザー」がいます。豊かな知識をもとに、素材や造り、価格の相談にも、親身になってのってくれます。

 

他の専門店にも、デパートにもないことですが、小物の単体売りを多く扱っていることも『人形のまるぎん』の特長です。ご近所の人形屋さんからも「それなら、まるぎんさんで」と紹介されるほどの品揃えだそうです。

小さな道具は失くしやすいものですが、こちらならいつまでも、大事な人形をきれいに揃え直せます。もちろん、最初の購入時に、人形や小物のセットの組み換えをすることもできます。

 

しかしながら、まず現代では、人形を購入しようと思う方にとっては、思い浮かぶのは、専門店というよりも百貨店や大手スーパーなどの身近なお店かもしれません。専門店にとっては、これらの大手企業も競合となるということです。

 

でも、百貨店や量販店のものは当然ながらセット組み。売れ筋の商品は並んでいますが、専門店に比べれば、種類は少なめです。また、お人形自体はこちらのが気に入ったけれど、小物や背景はあちらの方がいいなあ…という悩みは、しばしばありそうなことです。

しかし、個別に取り替えることはできません。店員も専門家ではないので、気軽に思える普段のお店でも、かえって相談しづらい面もあります。

 

 「人形のまるぎん」社長の八木さんとたくさんの節句人形のパンフレット

 「人形のまるぎん」社長の八木さんとたくさんの節句人形のパンフレット 

 

ところで、わたしたちが見るのは普通、完成した人形で、道具や背景も調って、一緒に飾られているものですよね。どうして、専門店では別々に扱うことができるのでしょうか?

 

それには、節句人形の製法に理由があります。

 

ぼんぼり、桜橘、衣装、太刀、弓矢…みんな別々の職人が作り、そして組み立てるものです。人形自体にしても、頭と手とは別々の職人さんが作っています。 

専門店は問屋と小売兼業で、それぞれの人形職人ともつながっています。小物の単体売りは、専門店の真心と人形作りの分業制という特徴が合わさってできるものなのですね。

 

“キワもの屋”の季節感

 

_MG_8521

 

当然ながら節句人形を扱っている人形店ですが、これらの店は「キワもの屋」という言い方もできます。漢字では「際物屋」と書き、シーズン商品を扱う店のことなのです。

 

節句人形がたくさん販売される季節は、お人形が飾られる時期、つまり春から初夏より、少し前の頃になります。

 

実は、そのシーズン以外に浅草橋を訪れた方には、もしかすると「人形屋」はお目にかからないかもしれません。この地域には、問屋価格の花火屋さんが夏の間数多く出現するのです(ただし、キワもの屋さんはみんな花火、というわけではなくて、盆提灯を売るお店もあるそうです)。

当社も浅草橋にあるので、近隣の店が季節ごとにがらりと様子を変えるのを実感しています。 

 

そういうわけで『人形のまるぎん』では花火の夏!

 

若い人から家族連れまで、真夏は花火で賑わいます。大阪にも松屋町と言う人形の町があり、カラッとした気風のせいか、そこでも花火販売が人気だそうです。

キワもの屋さんて、季節ごとに売り物を変えて繁盛しているんですね。

 

今(年末)もまだ節句人形はお店には出ていません。干支の人形やピックと呼ばれる松などと合わせて飾る雑貨で、お正月飾りの準備中!

節句人形は年明けからになります。雛人形の販売ピークは1月下旬から2月、そして春先から夏初旬、こいのぼりや兜飾りへと続きます。

 

「でも田舎の方では、もう雛人形をお店で飾っているところもあるんですよ。静岡や愛知とかね」と地方による販売時期の違いも教えてくださいました。浅草橋では首都圏のお客様が広く対象となるので、むしろ販売時期は遅くなる(短期に集中する)のだそうです。

 

地域により異なる人形のトレンド

地域による販売時期の話が出ましたが、人形の人気も、場所によってかなり違いが出るそうです。

 

販売期間も長く、豪華なものが好まれるのは東海・北陸地方です。結婚式が豪華な土地柄では人形も豪華になる傾向があるそうで、ホテルや料亭でお祝いをする地方もあるそうです。まさに結婚披露宴さながら!

人形からお国柄がみえるのがおもしろいところです。

 

人形の胴体に彫った溝に布地の端を差し込める“木目込み人形”

人形の胴体に彫った溝に布地の端を差し込める“木目込み人形”

 

お雛様の種類では、東京では“木目込み人形”が人気だそうです。

木目込み人形は造形的でモダンなデザインにしやすく、都会のマンションの洋室でも合わせやすいので、そこに住んでいる人の好みにも合うのでしょう。衣装もシックな色合いのものが人気です。

 

人形の胴体に衣装を着せ付けて台に固定する“衣装着人形”

 人形の胴体に衣装を着せ付けて台に固定する“衣装着人形”

これと対照的に、地方では“衣装着人形”の方が圧倒的に人気が高くなります。

親戚が集まってお祝いをすることも多い地域では、華やかさで勝る衣装着人形が好まれます。着物の色も伝統的な、濃くて艶やかな色が多いそうです。もちろん七段飾り、それでなければ三段飾りくらいは、と大きなものをお求めになる方も多いそうです。

 

小物の好みも都内と地方では異なるそうです。

たとえば、金屏風はどんな人形にも合わせやすく、価格もリーズナブルなので都内では人気があります。しかし地方では金屏風はいまひとつ人気が出ず、絵屏風や黒の方がよく売れるそうです。

好みということもありますし、やはり飾る部屋の広さや内装の差なのかもしれませんね。

 

大河ドラマにも注目!?今様人気の兜飾り

少子化が問題となって久しい現代、子どもの縁起物である節句人形は直接に影響を受けています。

そもそも、結婚の段階から儀式が簡略化されています。

市松人形などは仲人さんからの定番の贈り物だったのですが、今の結婚では、仲人さんがある人の方が珍しいくらい。贈る人から減っています。

 

また、節句人形をいざ買おうと思っても、住宅事情にも難しいものがあります。

マンションでは和室が無いところも多いですし、あっても床の間があるかどうか…。部屋全体の面積自体、そんなに広いものではありません。こいのぼりなどは人形よりも厳しい状況です。たとえ郊外の一戸建てでも、核家族化が進んだ今、巨大なこいのぼりを立てるのは、なかなか現実的ではありません。

 

しかし、このように時代の波に翻弄されることもある節句人形ですが、

困ったことばかりではないのです!

今の時代を生きるわたしたちが新しく楽しめるような変化もあります。

 

近ごろ人気急上昇中なのが、有名戦国武将の兜飾りを模したもの、武将飾りです。

戦国の世に名をはせ、人間的な魅力にもあふれた武将にあやかりたいという親心が表れています。

 

男の子のお父さんがずいぶん熱心に選ばれることも多く、お母さんはハイハイ、と見守っているのだとか…。ここでも土地柄は出るもので、静岡なら徳川、山梨なら武田など、それぞれの地域に拠点を置いた武将は、地元では他の追随を許さない人気だそうです。

 

全国的には伊達政宗が一番人気!

あの三日月の様なアシンメトリの飾り、とても格好良いですものね。

 

伊達政宗公兜

 

2009年の大河ドラマのあとは、直江兼続の兜が大人気だったそうです。「愛」という飾りが記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。

そんなわけで、人形屋さんは大河ドラマの主人公にはけっこう興味津々です。

 

さて、来年の大河ドラマの武将は、黒田官兵衛。この武将の兜は、特徴的な、朱塗りのおわんのような形です。五月飾りには少々不向きかも…?

うーん、知名度で勝るその息子、黒田長政の兜はどうでしょう?黒田長政の兜は水牛のような大きな角が付いていて、すごく見栄えがします!

 

でも、見栄えがよすぎても個性が強くなってしまって、毎年飾るための人形としては人気が出るとは限らないそうです。予想は難しいですが、次の年はどうなるのか、ちょっとワクワクしますね。

 

浅草橋の歴史の中に生きて

長年浅草橋で人形店を営む八木さんは、この地域の歴史についても博識です。

自然と知るようになるもんだよ、とご自身ではおっしゃっていましたが、いつも周囲の情報にアンテナを張っている証拠といえましょう。

 壁にかかっている古地図のパネル

 

お話を伺った部屋にある古地図とあわせて解説してくださり、江戸時代の賑わいを鮮やかにイメージすることができました。

 

くし形に船着き場の並ぶ隅田川沿い、そこから上がる米俵、それを商う町人やお役人、浅草寺に連なる数々の寺社、そこへ向かう旅人、立ち並ぶ土産物屋…。多くの物資や人が行き交い、当時の日本で考えれば、いっそ今よりも繁華な都会だったともいえます。

 

地図の中には広くあいたスペースも見られます。

江戸時代の消火は延焼を防ぐための破壊活動なので、壊すときにはそこにあったものをまとめて引っ越す先が必要なのです。そういう空き地は「火よけの代地(だいち)」と呼ばれ、建造物は仮設のものだけが許されていました。

そういうところで仮設の店舗で中小の商人が品物を売り、ある意味、建築制限のない土地よりも特色を持った繁栄を誇るのでした。

 

それから明治大正と時は下り、花柳界として栄えた時代もあります。昭和40年代ごろまでは、芸者さんの送迎を専門にする人力車の置き屋もありました。

料亭の跡地は広いので、マンションが建ちやすいという皮肉な事情もあって、今ではお店のあったところには続々とビルが建っています。

 

八木さんの幼少時には、どこの家も背が低くて、隅田川の花火大会の日には、こぞって2階の物干しに上がったそうです。川の本流にも支流にも、豪華なものからチョキ舟のような気安いものまで、たくさん船が出て、みんなで花火を見たそうです。

 

昔は、楽しい下町の風景があったのだろうな…などというのは、なんでも便利に暮らす現代人の無責任なノスタルジーでしょうか?

 

「お母さんが気に入ったお人形を」

「最後に、人形を選ぶお客様に一言メッセージを送られるとすれば、何でしょうか?」と、気軽に伺ってしまったところ、八木さんは「難しいなあ」とつぶやき、しばし考え込まれました。

 

 春のお祝いに

 

そして八木さんが思慮深く口を開きおっしゃったのが、

「赤ちゃんのお母さんが気に入ったのを選ばれるのがよいでしょう」ということです。

 

以前に、八木さんがお客様を交えて座談会をされたことがあり、そのときに聞いたことで印象に残るエピソードがあったそうです。

そのお客様は妊娠中に自分の子が女の子だと知り、まだ生まれていないときなのですが

「おひなさまが飾れる!」と、とても喜んだそうです。

 

それを聞いて、八木さんは改めて感慨深く思われたそうです。長年人形を売っているけれども、それだけ人形は女性にとって思い入れが深く、我が子のために飾ってあげるものなのだなあ、と…。

 

「だからね、祖父祖母があんまりしゃしゃり出ちゃあダメだよ」と、江戸っ子らしくハキハキとおっしゃっていました。若いご夫婦を支持する優しい笑顔が印象的です。

 

その反対も残念なんだけどね…とも一言。

若夫婦の方は人形にはそんなに関心が無くて、スポンサーである実家に人形代は半分でいいから残りは現金でちょうだい、なんて店先で喧嘩していることも、ないではないのです。

そうなると笑い話のような、悲しい話です。

 

人形界の明日を見つめるまなざし

 

『人形のまるぎん』社長の八木さんは東京都ひな人形卸商協同組合の理事長も務めています

 『人形のまるぎん』社長の八木さんは東京都ひな人形卸商協同組合の理事長も務めています

 

八木さんは、『人形のまるぎん』の社長の仕事とあわせて、一般社団法人日本人形協会の会長としても多忙な日々を送られています。

 

今力を入れていることに、品質表示を明確にする取り組みがあるそうです。情報化社会、何事も透明性が求められる現代、伝統の人形作りもその流れから無縁でいるわけにはいきません。

「よいものはよいのだから、明らかにすればいいんだよ」と、八木さんは聞こえの良い宣伝文句よりも本質を伝えていく努力が大事だと考えています。

 

非常に厳しい基準を持った法定のマークもありますが、そのほかは長年の慣習で、なんとなく決められている表示も多いそうです。老舗には抵抗感もあるし職人さんのプライドもあるしで、近代化もなかなか一筋縄ではいきません。

 

しかし、目先のことだけでなく、人形界の未来のためを思って品質表示の基準作りに取り組まれている姿に、一消費者としても強い感銘を受けました。

 

古き良き風土が活きる中に、現代らしさの息吹がある。

伝統を守る決意の中に、リベラルなまなざしがある。

 

浅草橋の人形店の姿は、下町の縮図ともいえるでしょう。

夏の花火販売、冬の正月飾り販売などもありますので、お近くにお寄りの際は、ぜひ身近な心持でのぞいてみてください。

 

そしてもし、いつか節句人形を選ぶ機会がやってきたら、そのときまた浅草橋の『人形のまるぎん』を思い出していただけたら嬉しいです!