お久しぶりです。プリプレス部の山田です。 前回からかなり間が空いてしまいましたが、また『完全データの道』を進めて行きたいと思います。
さて、そんな今回のテーマは『リッチブラック』です。
リッチブラックについては「vol.7オーバープリント」でも軽く触れていましたが、今回はもう少し掘り下げて説明して行きたいと思います。
『黒』の作りから見た印刷のメリット・デメリットを知り、印刷物を綺麗な形で完成させるため『黒』を理解して印刷表現の幅を広げていきましょう。
ひとえに『黒』と言っても、印刷では「K=100%のスミ」、「リッチブラック」、「4色ベタ」等々、色々な黒の表現があります。
どれも見た目は同じ『黒』なのですが、構成が全く違います。
K=100%のスミ
「K=100%」のみでできた黒です。1色で表現する純粋な黒。
黒のオブジェクトを作るときは大抵この黒を使用すると思います。
リッチブラック
100%のスミにCMY(いずれか、又は全て)を加えた色で表現する黒です。
K=100%よりも深みがあり重厚な見た目になります。
また、スミの下に被っている画像やオブジェクトの透け防止になります。
4色ベタ(レジストレーション)
CMYK全ての色が100%含まれている黒です。
基本的にデザイン内で使用する事はありません。
見当を合わせるためのトンボ等に使用されます。
ここでは分かりやすいように色を多少大げさに表現していますが、実際K100%よりも他の色を含んだリッチブラック・4色ベタの方が濃度が濃く色合いがはっきりしています。
K=100%のスミとリッチブラックを並べた時、普通のプレビュー画面では見た目に差はありませんが、オーバープリントプレビューにすると濃度の違いが見えてきます。
画面上ではほんの少しの差でしかありませんが、印刷になるとこの違いが重要なものになってきます。
そしてもう一つ知っていて欲しい黒がRGBをCMYKに変換した時に出来る4色で構成された黒です。
「vol.4 RGBとCMYK」でも少しだけ説明をしていますが、RGBデータからCMYKデータに変換した時、黒は1色から4色に変化してしまっています。
4色掛け合わせの黒になるので版ズレなどが起こると、細かな文字の部分等、読みづらくなってしまいます。
K=100%とリッチブラックでは、並べてみないとその違いはイマイチ分かりません。
それどころかリッチブラックの場合、内包するCMYの量によっては青っぽい黒、黄っぽい黒といった風に純粋な黒とは言えない色になってしまいます。
では、何故あえてリッチブラックにするのか。
黒に深みを与えたい。という事で使う場合もありますが、それだけではありません。
通常なら黒はK=100%で作成しますが、このままだと様々な問題が起こる可能性があるからです。
まず、「vol.7オーバープリント」でも書きましたが、スミにオーバープリントが掛かりスミノセになっていた場合、背面にあるオブジェクトの色が透けて見え、段差ができるという問題がありました。
リッチブラックにすると、見た目はスミですがK=100%ではないので自動的にスミにオーバープリントが掛かり、バックの色が透けて見えるのを防ぐ事ができます。
次にピンホールという汚れが出てきてしまう問題です。
ピンホール(穴抜け)とは印刷時にゴミやホコリが入り込み、その部分が白く抜けてしまう状態の事を言います。
スミ1色でのベタ部分が多い場合、この様な現象が起こりやすくなります。
そこで、問題の部分をリッチブラックにする事で、ピンホールが起こってしまっても他の色が補い合って目立ちにくくする事ができます。
リッチブラックは黒に深みを与えるだけでなく、このようにK100%の黒と比べて様々なエラーを防ぐ事が出来ます。
「じゃあスミの部分全部をリッチブラックすれば良くない?」
そう思った人もいるのではないでしょうか。
しかし、リッチブラックを多用してしまうと次は別の問題が浮上してきます。
それは『小さい(細い)オブジェクトまでリッチブラックにしてしまう』問題です。
様々なエラーを防いでくれるリッチブラックですが、いくつか注意点があります。
ひとつは『版ズレの影響を受ける』という事。
大きなオブジェクトより、小さなオブジェクトの方が版ズレの影響は大きく、細かな文字にリッチプラックを使用していた場合、版ズレが起きると文字が ぶれて見えてしまいます。
もう一つが色を濃くし過ぎると裏移りやブロッキングが起きる事がある、という事です。
用紙、インキの乾燥スピードや積み上げ時の温度・湿度などにもよりますが、双方ともインキの盛り過ぎが原因となります。
印刷側で工夫をする事で、ある程度防ぐ事はできますが一番はインキを盛りすぎないようにする事。
紙やインクの種類などにも左右されますが、どんなものでも色を盛りすぎると裏移りやブロッキングのエラーが起こる確率は大きくなります。
印刷に4色ベタ(レジストレーション)を使ってはいけないのはこういった問題があるからです。
リッチブラックを作成する場合下地の濃度はK=100%を含めて250%以内に抑える事。これが原則です。
リッチブラックに限らず、250%前後の濃度のカラーを使用していると起こりうる問題なので広い範囲で濃い色を使用する場合注意してください。
小さなスミ文字はK100%。 大きなスミのオブジェクトはリッチブラック。
当然ながらこれは絶対にこうあるべきだ。と、いうことはありません。
あくまでも一つの表現方法として覚えておくと、様々な問題に対処でき便利という程度です。
ですが、それぞれのメリット・デメリットを理解しつつデザインに組み込めたら、また一つ表現の幅が増えるのではないでしょうか。