こんにちは。プリプレス部の山田です。
さて、今回はいままでの記事の中で登場した事のあるトラッピング(かぶせ)を説明していきたいと思います。
トラッピングについては良く知らないという人も多いのではないでしょうか。
最初から印刷会社頼みだったり「トラッピング作業済みです!」と入稿されてきたデータでもこのままじゃちょっと使えないなぁ……思ってしまう物があったり。全く出来ていない訳ではないのですけど印刷側から見るとちょっと残念。という感じです。
少しややこしい作業などもありますが基本がわかってしまえば簡単なので是非この機会に覚えて実用化してみてください。
版ズレなどものともしないワンランク上のデータを作成しましょう!
vol.7オーバープリントでも書いた通り、色は前面にあるオブジェクトの形に抜かれてしまうので、版ズレが起きると紙地が見えてきてしまう事があります。
それを防ぐために、隣り合う色同士をほんの少しだけかぶせて版ズレが起ても紙地が出ないようにする作業をトラッピングといいます。
内容だけを見るとスミノセのカラー版という感じでしょうか。
ただ、スミノセと決定的に違っているのは重なっているオブジェクトにオーバープリントを掛けてノセにしてしまえば良いという単純な話で終わらない所です。
K=100%だとどんな色が下にあっても黒の色が強いので塗りつぶしてしまう事が可能ですが、カラー同士の重なりだとそれぞれの色の影響を受けて色が変わってしまいます。
そこで色と色を少しだけ重ねて互いの境界にトラップという部分を作り、お互いの色がズレても紙地が出てこないようにします。
トラッピングにはチョークトラップとスプレッドトラップの2種類があります。
トラッピングはトラップで重ねた部分の色が変化するので出来る限り重ねた部分を目立たせないようにする必要があります。
重なり合う色の濃淡により、チョークストラップとスプレッドトラップを使い分けます。
どちらのトラッピングも薄い色を濃い色にかぶせて色が馴染むようにしています。
これが逆で濃い色を薄い色に重ねていると、本来のオブジェクトの大きさよりも大きく、または小さく見えてしまいます。
このように、かぶせる色や方法を間違えると太さや大きさが変わってしまったり、最悪細い文字などは潰れて見えなくなってしまいます。
それではIllustratorでの簡単なトラップの作り方を説明します。
パターン1.
トラップの最も単純な作り方として「線を巻く」だけという方法があります。
オブジェクトを選択し、かぶせたい色の罫線を作るだけです。
後はこの罫線にオーバープリントのチェックを入れる。
これだけでトラップの完成です。
パターン2.
パスのオフセットでトラップを作成します、罫線を巻くだけではうまくトラップが作れない時に役立ちます。
トラップを作成したいオブジェクトを選択し、パスのオフセットを使用。
必要なトラップの幅を入力し、トラップ分ひかえられたオブジェクトを作成します。
ひかえたオブジェクトをもとのオブジェクトの下に重ね、上に乗っているの元のオブジェクトにオーバープリントのチェックを入れます。
パスのオフセットは2種類あります。
1つは「オブジェクト」から作成。もう一つは「効果」から作成する物です。
どちらも同じ効果を持っているのですが、少し違いがあります。
「オブジェクト」→「パス」→「パスのオフセット」から作成すると、オフセットを掛けたオブジェクトが同位置にコピーされます。
このとき、元のオブジェクトには変化がなく、元のオブジェクトとオフセットを掛けたオブジェクトの2つのオブジェクトが重なって出来ます。
「効果」→「パス」→「パスのオフセット」から作成すると、選択しているオブジェクトが太ったりひかえられたりします。
トラップを作成するには重なる2つのオブジェクトが必要になってくるので、トラップ用のオブジェクトをコピーして作成しておかなければなりません。
しかし、「効果」から作成したオブジェクトは「アピアランス」に情報が現れるので、アピアランスを分割しない限り、オフセットの数値を何度でも修正する事ができます。
パターン3.
マスク(command+7)で必要な部分だけ取りだしてかぶせます。
罫線、またはパスのオフセットで作成したトラップにマスク機能を使用し、必要な部分にだけトラップを作成します。
必要な部分だけ…というとパスにポイントを打ったり、パスファインダーで型抜きをして必要な部分だけ取り出したりと様々な方法がありますが、不要な部分を除いているうちに必要な部分まで消してしまう危険性があります。
しかし、データの内容によってはそういったやり方のほうが適正だったりするのでトラッピングは一つの考え方に捕われずシンプルなデータ作成を心掛け、柔軟に対応していきましょう。
マスクを活用する時、複数のオブジュエクトでマスクを作成したい場合、複合パスを使うと簡単です。
複合パス(command+8、または「オブジェクト」→「複合パス」→「作成」)で複数のオブジェクトを一つにするだけです。
※グループ機能では複数のオブジェクトでマスクを作ろうとすると、マスクを掛けたオブジェクトが消えてしまう(パス上では存在するがプレビュー画面では見えない)ので注意してください。
●トラップの太さ
トラップはあまり細すぎると印刷に現れませんし、太すぎると見えてきてしまう恐れがあります。
なので、トラップの幅は基本的には0.1mm程度で十分だと思います。
ただし、紙やインクの素材によってはそれ以上、またはそれ以下の数値が適切になる場合もあります。
●線の特性を理解する
線を巻いてトラップを作成する場合、線はパスの中心を基準にして太くなっていくので、0.1mmの線だとトラッピングが適応されている幅は0.05mmとなってしまいます。
0.1mm幅のトラップにする場合は、線の太さは0.2mmにして0.1mmかぶせるようにするか、線の位置を変えてかぶせたい部分が0.1mmになるようにしましょう。
線の位置は『線を中央に揃える』、『線を内側に揃える』、『線を外側に揃える』の3種類があります。
基本は『線を中央に揃える』になっているので1mmの線幅にした場合、先述した通りパスから0.5mm、0.5mmずつ線が広がりますが、『線を内側に揃える』・『線を外側に揃える』にすると、内外片方だけに1mm広がります。
気を付ける部分はこの「線の位置の変更」は閉じたパスでしか適応できない。という事です。
テキストも編集可能な状態では選択できず、アウトラインを取ったものだけに適応できます。
●オーバープリントと乗算
トラップを作成するとき、「オーバープリントのチェックを入れる」と書いてきましたが、色を重ねる事が出来れば良いので、乗算でも同じような効果が得られます。
しかし、vol.7オーバープリントでも書いた通り、オーバープリントと乗算では色の重ね方に違いがあります。
乗算を使用する場合は、罫線を巻いてトラップを作る時、線の設定が「線を中心に揃える」だとパスの内側にある線にまで乗算の効果が付き、不必要な部分の色が変わってきます。
更に、オーバープリントは透明効果ではありませんが乗算は透明効果になります。
余分な分割を防ぎたいというところもあり、オーバープリントでトラップを作った方がデータも軽く安全です。
ただし、入稿先の設定によりオーバープリントが破棄されてしまうのであればトラップを作成しても全てが無駄になってしまうのでその場合は乗算で作成するしかありません。
オーバープリントを使用してトラップを作るか、乗算を使用してトラップを作るかではそれぞれ作り方が変わってくるので、データを作成する前に必ず入稿先の仕様を確認してから作り始めるようにしましょう。
●トラップの色とかぶせ方
トラッピングをする時に気を付けて欲しいのが互いに重なり合う色です。
色相、濃淡によってチョークトラップとスプレッドトラップを使い分けます。
CMYKの中ではYが一番見えにくく、Kが一番目立ちます。
目立つ色を重ねてしまうと、重ねた部分の境目で色が変わってしまったり、一部分が太って見えたりしてしまいます。
赤と緑など、どちらにせよ重ね合わせたら黒になってしまう色などは、出来るだけ濃度の薄い方を選び重なった色が目立たないで済む方をかぶせるようにします。
両方とも同じような濃度でどうしようもない場合はトラップの幅を細くしたりして少しでも目立たないように工夫することもあります。
2種類のトラップを説明しましたが、どちらの方法で作成しても結局は薄い色を重ねるというという事に変わりはありません。
少し乱暴なまとめ方かもしりませんが「トラップは薄い色を重ねる」ここをしっかりと覚えておけば問題はないかと。
たかが0.1mmそう思うかもしればせんが実際印刷してみると意外と違和感を感じます。
トラップを作成するの時は、色に対して適正かどうかを考えてから作成しましょう。
●トラップの必要性
版ズレが起こるからと言って全てのデータにトラップを作成する必要はありません。
トラッピングが必要なのは隣り合う色同士が同じ色を内包していない時です。
4色データの場合は下図のように隣り合う色同士、お互い内包する色が入っている事が多く、ズレた部分を補い合って紙地が露出するのをカバーできます。
なのでCMYKの4色データなどでは余程神経質にならない限りあまりトラップを作成する機会はないかとおもいます。
ではどういった時にトラッピングが必要になってくるのか。
例えばチラシなどでよく見る2色刷りのデータや、CMYK以外に特色を使用するデータです。
2色の場合はそれ以上の色がないので2色の境が確実に存在し、紙地が見えた時も4色データのものより目立つ恐れがあります。
特色を使う場合は、CMYKどの色とも混ざらないので特色と接する部分全てにトラップを作成する必要があります。
はじめの方に書いた「ちょっと使えない」と思ってしまうデータですがそれらは一体どんな物かというと、
・トラップの幅が細い、又は太すぎる。
・トラップの幅が場所によってバラバラ。
・トラップを作っている部分と作っていない部分がある。
等の事が挙げられます。
『トラップの幅が細い、又は太すぎる』
トラップが細すぎると印刷に現れず、太すぎると目立ってしまいます。
トラップの幅に関しては印刷する紙によって変わるので適切な太さはどのくらいか調べてから作成した方が二度手間になりません。
とはいえ特殊な物でない限り基本的には印刷物の大きさも考慮した上で0.05〜0.1mmが適切かと。
『トラップの幅が場所によってバラバラ』
トラップの幅がバラバラだと適切な太さで作られているのかどうかを全て見直さなければならなくなります。
後から間違いに気付いて見直しては作り替えて……なんて面倒ですよね。トラップの太さは統一して作るようにしましょう。
トラップ幅が違う一つの原因として、「線の位置を変更している物としていない物があるのにどちらも同じ線幅で設定している」という物があります。
なにかしら効果を使った時はその効果に応じた数値に変えるのを忘れないでください。
『トラップを作っている部分と作っていない部分がある』
トラップの作り忘れなのかそうではないのか。
制作者でない限りわからないですよね。
事前に意図があってしている事と伝わっていれば別ですが、大まかな部分は出来ているけど細かい部分数点が出来ていない。なんて事はちょくちょく……
トラップの作り忘れには注意し、部分的にトラップを掛ける場合は注意事項として連絡するようにしましょう。
トラッピングは理屈は単純なのですがデータの作り、トラップの作り方によってはかなり面倒になってしまう代物です。
でも投げ出さずに何度も繰り返せば確実に身に付きます。
最初は手間取ったやり方になってしまうかもしれませんが、わかってしまえばより簡単な方法・作り方という物が見えてくるはずです。
ここに記載している方法はあくまでも一例であり初歩的なものばかりですので、トラップに挑戦しながら作成しやすい方法を考えてみてください。
トラップを作成するソフトなどもありますがまずは自分で作成してみてください。
一度コツを掴んでからの方がそれらを上手く活用できるはずです。